2006年12月07日

昭和の駅物語

駅員さんは改札口ではさみをカチカチ鳴らしている。
朝と夕方はいつも忙しい。
それに加えて年末はさらに忙しい。
でも駅員さんは勤勉だ。

ひとりの女の子が
のびをしながらプラットホームを覗いている。
いつも見かける顔。
茶色いソフト帽をかぶった男の人が改札口を通る。
女の子はその男の人に飛びついて、コートに
しがみつく。
「お父さん、おかえりなさい。」
「やあ、僕の忠犬ハチ公さん、
今日もおむかえありがとう。」
「ねぇ、ねぇ明日は映画の約束よ。」
「ああ、そうだったね。‘白雪姫’かい?」
「そうよ、ディズニーのね。」
そんなことを話しながら帰って行く。

大きな荷物をしょった行商帰りのおばあさんが通る。
荷物が改札口にひっかかると、
後ろにいた学生服の高校生が
荷物をひょいと持ち上げてやる。
おばあさんは曲がった腰をさらに曲げて
学生さんにお礼を言いつつ帰って行く。

人並みがちょっととぎれたとき、
伝言板の前で若い女性が
何かを書いては消し、書いては消し・・・
また書いて、走り去る。
何を書いたかはナイショ。

しばらくすると
白いエプロン姿の若い奥さん風の女性が
傘を2本かかえて入ってくる。
他の乗降客の中にも肩を濡らしている者がいる。
雨なのか、いや、雪かも知れない。
そういえば足下から冷たさがはい上がってくる。

駅員さんはカチカチとはさみを鳴らしながらも
そんな人々の風景をちゃあんと見ている。


      電車 家 クリスマス 


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2006年10月10日

クロスケ物語

    クマ 最終回 本

犬の里親捜しは何も譲渡会ばかりではない。
所長はその後も、クロスケの里親捜しに奔走していた。
何が何でもクロスケを幸せにしてやるぞと、
強く心に言い聞かせながら・・・

その間にも、たくさんの犬がセンターに連れてこられた。
クロスケの周りにも、また、子犬が増えた。
このままでは、クロスケの居場所がなくなるおそれがある。

そんなある日、所長のもとに一人の来客があった。
所長の古くからの友人で、聴導犬の訓練士をしている。
所長さんがクロスケに会わせるために来てもらったのだ。
「この子よ、どうかしら?」
「そうね、人なつっこい良い子ね」
でも、聴導犬に向くかどうかは、テストしてみないと
わからないわね。
数日、この子をお借りしてもいいかしら?」
「ええ、おねがいするわね。」
「でも、あまり、期待しすぎないでね。」
そんな会話の後、クロスケは所長の友人に連れられて
研究所を後にした。

一週間後、所長のもとに電話があった。
あの友人からだった。
「クロスケね、あんなすばらしい子は見たことないわ。
聴導犬になるために生まれてきたんじゃないかしら。
返せっていってもだめよ。あの子は私が絶対に
立派な聴導犬に育て上げるわ。」
興奮気味の友人の声を聞きながら、所長の右手が
ガッツポーズをしていた。


クロスケは今、思っている。
犬はどんな目にあっても絶対に人を恨んだりしないよ。
でも、優しくしてくれたら、どんなことにも応えるからね。
人と一緒に生きて、人に喜んでもらうことが、
ぼくらのいちばんの幸せなんだよ。

                  Hello おしまい
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2006年10月09日

クロスケ物語

    クマクマクマクマクマ その5

譲渡会の朝、クロスケは他の子犬たちといっしょに
きれいにブラッシングをしてもらい、首に番号札の
ついたリボンを掛けてもらった。
クロスケの番号は3だった。

所長さんは、6匹の子犬と共に譲渡会場へと向かった。
「どうか、この子犬たちがみんなすばらしい里親と
巡り会えますように!」
と、心の中で祈りながら・・・

譲渡会場には、もう12組の里親希望者が集まっていた。
年配のご夫婦、若い二人、子供連れ、中には6人の
家族全員でやって来た人たちもあった。

簡単な挨拶の後、いよいよ子犬が連れて来られた。
1番の子犬が若い職員に抱かれて前に進み出た。
白い毛のふさふさしたマルチーズみたいな子だ。
二組の家族が手を挙げた。
希望者が重なった場合は、くじ引きで決定される。
この子は小学生の女の子のいる家庭に決まった。
2番の子は柴犬のミックス犬で、この子には
3組の家族が手を挙げ、年配の夫婦の家庭に
引き取られることになった。
くじにはずれた男の子が泣き出したが、それは
どうしようもないことだ。
いよいよクロスケの番が来た。
「この子の希望者はいませんか?」
しかし、手が挙がらない。
職員がもう一度声を張り上げたが、クロスケを
希望してくれる家族はいなかった。
この譲渡会では、くじにはずれたものが別の子犬を
希望することはできない。
したがって、もうクロスケを飼ってくれる家族は
いないことになる。
譲渡会は続き、クロスケ以外の全ての子犬の里親が
決まった。

譲渡会は終わった。
所長さんは、一匹だけ残ったクロスケを抱きしめながら
つぶやいた。
「クロスケ、ごめんね。
今日の譲渡会で君の可愛さをアピールすることが
できなかったよ。君は、広場を走り回っているときが
いちばん可愛らしいもんね。
抱かれたままでは、クロスケの特長がでなかったね・・・」

その夜、クロスケはひとりぼっちで眠った。

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2006年10月08日

クロスケ物語

   クマクマクマクマその4

クロスケは他の子犬たちとは別のケージに一匹だけで
入れられた。
所長さんが部屋から出て行った後、クロスケは淋しくて
ちょっとだけ泣き声をあげた。
でも、疲れていたのですぐに眠りについた。
小さな寝息と共にお腹が波打っている。
ときどき、口をちゅぱちゅぱと鳴らすのは、
お母さんのおっぱいを飲む夢でも見ているのだろうか。
こうして、クロスケの長い一日が終わった。

次の日、クロスケはみんなと一緒に目を覚ました。
「お早う!」
と所長さんがやってくると、ケージの扉をひっかいて
「出して!」と催促した。
そして、おいしい朝ご飯をお腹いっぱい食べた後は、
すっかり元気を取り戻していた。
朝食後、犬舎の裏の広場に出してもらって朝の運動だ。
最初は恥ずかしがっていたクロスケもすぐにみんなと
仲良くなれて力いっぱい走り回った。

クロスケはお勉強もした。
トイレのレッスンはほぼ完璧。
おすわりはできるクロスケだから、
次は「おて」、「まて」、「ふせ」も学んだ。
クロスケは他のどの犬よりも覚えが早く、
ひとつひとつの仕草がとても愛らしい。
「まて」をしているとき、見上げるその大きな瞳に
所長さんの胸はキュンとするのだった。


それから3週間が過ぎた。
明日はいよいよ犬の譲渡会だ。
いくら譲渡会といっても、欲しい人だったら誰でも
良いというわけではない。
一度は辛い目にあった犬たちだから、今度こそは
何が何でも幸せになってもらわなければならない。
だから里親になりたい人の審査は厳しくなされる。
家族構成から、犬を飼う環境、さらに心構えまでもが
厳しくチェックされる。
100組近い応募者の中で譲渡会に出席できる家族は
15組にしぼられていた。
子犬は6匹。
みんな優しい家族に巡り会えるだろうか?

                    つづく


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2006年10月06日

クロスケ物語

   クマクマクマ その3

所長はクロスケを床に下ろしてやった。
クロスケはとまどいながらも鼻をくんくんと動かし、
床の臭いをかいだ。
「クロスケ、おいで。」
と、所長が声を掛けると、クロスケはきょとんとして
所長を見上げた。
「そうか、君には別に名前があったのよね。
それとも、名前もつけてもらってなかったのかな?」
所長は腰をかがめて再び「おいで。」と呼んだ。
するとクロスケはとことこやってきて、所長の前に
ちょこんと座った。
「君は賢いねえ。
いいかい、これからはクロスケという名前でうんと
幸せになるんだよ。」
所長はクロスケの顔を両手ではさんで
くしゃくしゃにするのだった。

所長は子供の頃から大の動物好きだった。
その中でも犬は特別で、そばにいるのが当たり前の
ように暮らしてきた。
犬たちもそのことをよく知っていて、彼女になつかない
犬はいないほどであった。
その彼女が、なぜに動物管理センターの所長なのか?
ある日、彼女の友人が尋ねたことがあった。
「あたな、なんでよりによって動物管理センター
なんかで働いているの?辛くないの?」
すると、所長はこう答えた。
「私がセンターを辞めたら、処分される動物が減るの?
違うでしょう!他のだれかが所長になって、延々と
殺処分は続いていくでしょう。
私には、人間の身勝手で殺されていく犬たちの最期を
見届けてやる義務があると思ってる。
だから、殺される犬が一匹もいなくなるまで私はこの
仕事を続ける覚悟なの。
それと、ここにいると、消えていくはずの命を救える
機会もたくさんあるのよ。」

きれい事では片付けられない現実の前で、いちばん苦しい
思いをしているのは、実はこの所長さんだったのである。

                     つづく
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2006年10月05日

クロスケ物語

     クマクマ その2

動物管理センターには毎日毎日多数の犬たちが連れて
来られる。
殺処分されるために.....
その大部分は飼い犬だ。
引っ越し先で犬が飼えないから、
吠えるので近所から苦情がきたから、
噛み癖があるから、
予定外で子犬が生まれたから.....
理由は様々だが、これまで一緒に暮らしてきた犬を
飼い主が自らの意志で処分しようというのだ。
自分で飼えないのなら、なぜ引き取り手を探さない!
吠えるのは何かストレスがあるに違いない、
解決方法はある。
噛み癖も真剣に取り組めばなおせるはず。
子犬がいらないのなら、なぜ産ませないようにしなかった!
飼い主にも言い分はあるかも知れない。
でも、どんな理由をつけても命を奪う権利は誰にもない。
ましてや、これまで一緒に暮らしてきた犬の命である。

さて、さきほどの職員は子犬を胸に抱いて、
犬舎のほうへ向かった。
いくつもの檻が並んでいる。
どの檻も犬たちでいっぱいだ。
シベリアンハスキーがいる。
一時期とても人気のあった犬種だが、
日本の家庭で飼うにはちょっと無理があった。
多くのハスキーが捨てられた。
素敵な服を着たミニチュアダックスもいる。
きっと、かわいがられてたに違いないのに。
りぼんをつけたシーズー、高そうなカラーを
首につけた芝犬、ダルメシアンもいる。
みんなあと数日の命だ。
職員が檻の前を通りかかると、どの犬もどの犬も
「出してくれ!ワンワン」と必死になって叫ぶ。
隅っこでじっとしている犬は飼い主が
「ごめんね、淋しかった?」といって、
迎えに来てくれるのを待っているのかも知れない。
でも、奇跡が起こらないことを職員だけは知っていた。

子犬を抱えた職員は、その子犬を檻の中には入れず、
犬舎の先にある建物に入っていった。

「所長、また子犬がやってきました。」
所長と呼ばれた人物は四十代の優しそうな女性で、
部屋の中にいる何頭かの子犬の世話をしていた。
「死なせるのは忍びなかけん、ここに連れてきました。」
職員は所長にその子犬を手渡しながら言った。
所長は、子犬を抱き取りながら、
「来月の譲渡会に間に合うわね。引き受けましょう。」
職員にはそうこたえた後、
今度は子犬に向かって、
「おやおや、君は真っ黒だね〜。白いところは1cm四方も
見あたらないね。よし、今日からクロスケだ。」
と言って、子犬の首の辺りを優しく撫でた。
子犬も少し落ち着いたようで、所長のあごを小さな舌で
ぺろぺろなめた。
「それでは、失礼します。」
職員は退くとき、背中で所長の小さなため息を聞いた。


                      つづく





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2006年10月04日

クロスケ物語

      クマ その1

「あんた、この犬がどうなるかわかっとるとか?!」
動物管理センターの職員は子犬を持ち込んだ女性に
向かって声を荒げた。
女性は小さな声で
「はい、安楽死させられると聞いています。」
と答えた。
「安楽死?」
職員は頭を振りながら言った。
「あんたねぇ、安楽死というのは病気や事故で苦しんでいて
先の見込みのなくなった犬を、なるべく苦しめないように
あの世に送ってやるということばい。
ここに連れてこられた犬はそげんじゃなか。
これからどれくらいでん生きられる命に強引に幕を引かれると。
それも狭いガス室で、もだえ苦しみながら死んでいくとぞ!」
それを聞いて女性は大きな衝撃を受けたようだった。
何も言わずポロポロと涙をこぼした。
職員はそれを見ると、
「泣くくらいなら、こんな所に連れて来んで
自分で責任を持って育てたらどうね。」
と、諭すようにいった。
しかし、それでも女性は犬を連れて帰るとは言わなかった。
逃げるように女性が去った後に段ボール箱に入れられた
小さな犬が残された。
ちょっと小振りの黒ラブに似た、真っ黒くろの子犬。
生まれて2か月くらいだろうか。
小刻みにふるえている。
職員はあきらめたように、その子犬を抱き上げた。
子犬は2本の前足でしっかりと職員の胸にしがみついた。

                       つづく

ニックネーム スカーレット at 12:05| Comment(4) | TrackBack(0) | ささやかなメルヘン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月11日

優しい風景

雨に濡れたお地蔵様に
赤い傘を差しかけてあげたのはだぁれ?


巣から落ちたひな鳥に
やさしい手をさしのべてあげたのはだぁれ?


横断歩道で
一度は追い越したおばあさんの手を引いてあげるために
もどってきた女子高生はだぁれ?


雨の中…


探して見てください


きっとあなたの町でも
こんな優しい風景が見つかるかもしれません


 
     雨揺れるハート






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2006年05月21日

野鳥の詩

ツツピー、ツツピー

シジュウカラのごあいさつです

「お揃いでおでかけですか?
 黒いネクタイがお似合いですよ。」

「はいはい、今日はコーラスの発表会です。
 途中でちょっと声ならしを。」

「まあまあ、それはすばらしい。
 ご健闘を祈ります。」



チョットコイ! チョットコイ!

大声で呼んでいるのはコジュケイさんです

「だれかお探しですか?」

「わんぱくざかりの子供達ですから、
 油断してるとすぐ迷子です。
 大声出さなきゃ追いつきません。」

「あらあら、それは大変ですね。
 がんばってください。おかあさん!」


 小鳥  小鳥  小鳥  小鳥  小鳥
ニックネーム スカーレット at 12:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ささやかなメルヘン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月18日

4番目の赤ちゃん

かあさん犬が赤ちゃんを産んだ

1 2 3 4 生まれたての子犬

クマ クマ クマ クマ

どのこもみんな元気に育ちますように…



ところが今は

1 2 3

4番目の赤ちゃんはどうしたの?

甘えん坊だったから

もう一度、母さんのおなかにもどったの。



いつかまた、会えるといいね。







ニックネーム スカーレット at 16:52| Comment(3) | TrackBack(0) | ささやかなメルヘン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月15日

昭和のバス物語

お昼過ぎからポツポツと落ち始めた雨は、
親子連れがバスに飛び乗ったときには本降りになっていた。
傘を持ってないことを心配して女の子は母に言った。
「バス降りたらぬれちゃうね。」
母は黙ってうなずいた。

やがてバスは駅前のバス停に着いた。
駅舎まではちょっと離れている。
母親は娘の手を引いて昇降口へ…
そのときだった
若い車掌がその女の子を抱きかかえると、
一気に走った。
あわてて母親が追いかけた。
車掌は駅舎の中に女の子をおろすと、
背中を雨に濡らしながら、再びバスにもどっていった。
「ありがとう」と、女の子が手を振った。
母親は頭を下げた。
ドアを閉めながら、若い車掌は小さく敬礼をした。
バスが走り去った後、そこには暖かい空気が流れていた。

ちょっと昔。
まだ、バスに車掌さんが乗っていた昭和の頃の物語。

あのときの車掌さんは今頃どうしているのだろう。
お父さん?いや、だぶんおじいちゃん!
かわいいお孫さんを膝に乗せて優しく笑っているのだろう。

雨がこんな話を連れてきた。



      霧 バス霧
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2006年05月13日

てんとう虫

てんとう虫のナナホシさんは
とっても旅が好きで、
今朝、チューリップの葉っぱの先から旅立ちましたよ。

どこへ行ったかわかりません。

でもね、きっと戻って来ますよ。

ここにいるみんなが
彼のこと、とても愛してるって知ってますから。


晴れ



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そらまめ

そらまめは

空に向かって実をつける。

はるか彼方に消えてった

小さな命を追いかけて

はじけて飛んで行くために?


      ☆彡




ニックネーム スカーレット at 01:12| Comment(1) | TrackBack(0) | ささやかなメルヘン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする